GSJニュースレター NO.15 2005/12

写真1 会場の様子.
写真2 総合討論.

第3回地質調査総合センターシンポジウム講演報告
佐藤 努 (地質調査情報センター)

 2005年11月29日(火)の13:00より,秋葉原コンベンションホールにて第3回地質調査総合センターシンポジウム「付加体と土木地質-地質図の有効性と限界-」が行われた.同時に最新地質図発表会も開催され,産総研内外を合わせて150名(産総研外部115名)を超える方が出席した.

 日本列島の基盤は,付加体,変成岩及びこれらに貫入する深成岩からなる.国土を有効に利用するためにも,付加体を始めとした基盤を構成する地層・岩体の地質情報は重要である.例えば付加体地域の土木地質では,地滑りなどの斜面災害対策やトンネル及びダムの施工において,複雑な地質を的確に表した地質図が必要になる.

 本シンポジウムでは,各種地質図を作る地質調査情報センター,目的に応じたより大縮尺の地質図を作成する地質コンサルタント,土木構造物の施工に関連した地質情報を必要とする建設会社の3者からの発表が行われた.これは,付加体を中心に地質図に代表される地質情報の取得及び提供のあり方を探ることを目的としたものである.

 まず,地質調査総合センター代表の佃 栄吉氏より開会の挨拶があり,それに引続き地質情報研究部門の栗本史雄氏,宮崎一博氏,斎藤 眞氏の3氏から地質図に関する講演が行われた.栗本氏からは,地質分野の研究戦略と陸域地質図プロジェクトについて,宮崎氏からは,地質図の作成と地質の研究について5万分の1地質図幅「砥用」の例を挙げて説明が行われた.いずれも,地質図の作成についての方針や具体的な作業に関する講演であった.斎藤氏は,シンポジウムのテーマである付加体に絞り,その地質学的特徴や地質図を作成した際に注意を払った点などについての講演を行った.

 次に,水資源機構の阪元恵一郎氏と日本工営の小俣新重郎氏が,付加体地質の特徴的な工事現場における地質図の活用として,浦山ダムの例について講演を行った.阪元氏は,ダムの設計にどのように地質図が活用されたかという点について,小俣氏は,付加体地質を整然相とメランジェ相に分けた場合,メランジェ相が傾斜変動に大きく影響を与えることを述べた.

 講演の最後では,大成建設の服部弘通氏と鹿島建設の稲葉武史氏が,付加体地質の特徴的な地域におけるトンネル工事の現状について講演した.服部氏は,泥質岩が優勢なメランジェ相において,応力解放に伴う崩壊がトンネルの先端である切羽でよく起こることを実際の例を示して解説し,稲葉氏は,トンネルを補強する支保のパターンと地質とを比較すると,泥質のメランジェ相でより強固な支保パターンが必要とされている現状を述べた.

 以上の講演に引き続き,総合討論が行われた.総合討論では,後半の講演で主に取り上げられた泥質のメランジェ相についての質問やコメントが多く出された.泥質のメランジェ相は,地表の地質調査では一見強固に見えることもあるが,切羽における応力解放によって強度が著しく低下することがあり,各種工事に大きな影響を与えている.今後の地質図に要望する点として,そのようなより物理的な情報を加えられないかという提案や,メランジェ相のブロック状岩体についてその存在を予測しやすくして欲しい,などの提案が会場から出された.最後に地質情報研究部門長の富樫茂子氏より閉会の挨拶があり,シンポジウムの講演部は終了した.  

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