GSJニュースレター No.1  2004.10
国際数理地質学会(IAMG)にみる学会経営の一側面    地質調査情報センター
開催国ならでは?こんなポスターもありました(撮影:古宇田亮一)
 国際数理地質学会(IAMG)は,IGCのたびに,役員を総入れ替えしている.定款上,再選はない.筆者は4年間のIAMGの理事を今回で終え,今年の改選の役員候補選定委員も勤めたので,国際学会の運営の一側面について紹介したい.

 国際学会の学術論文誌のあり方や講演会開催国の決定,予算運用等,経営の方針を決めたり,実際の細かな運営に直接関わるのは理事である.IAMGでは,理事は会員から候補者を定員の数倍程度選び,選挙で選択される.各候補者は,これまでの略歴や学術上の実績に加えて,学会経営に関する抱負等を会員に公開する.これによって,学会内の指導的な立場にある世界の学者の動向や,その意見等を垣間みることができる.

  役員候補の選定にあたっては,学問上の実績は勿論ながら,これまでの国際学会誌編集への貢献やimpact factor向上等にどれほど尽力したか,あるいは,講演会でのセッション座長として国際的にユニークな研究者を集め続けてきたか,などが主な選考基準となる.これに南北米州・欧州・アジアなどの地域バランスも加味される.

 日本の場合,従来は一般に旅費が自由にならなかった事情もあって,よほど名の知られた大家でないと,昔は,ノミネートされ難かった.法人化などの影響もあって,国際学会の行事に顔を出したり,国際学術誌の編集に携わる人材も多くなり,今や欧米にひけをとらずに活躍されている日本人が多く,ごく普通になってきたと思う.地域割りだと,近年では中国やインドなどの方が幅を利かせるため難しくなる傾向がある.

 課題は,欧米諸国でも役員構成が60代以上と高齢化が進んでいるが,少なくとも下働き的なところで如何に早く世代交代するかであろう.このように考えて,これまで10年以上継続していたIAMGのセッション座長を10歳以上若い日本人研究者に御願いし,今回のIGCで国際デビューしていただいたり,学会誌の副編集長を若手の日本人に引き継ぐなど,主力を40歳代前半に若返らせることができた.もちろんシニアの役割も残るので,これからも各方面でお手伝いするつもりである.

 このように国際講演会のセッションを継続して開催したり,国際学会を経営するメリットは,国際協力の利点はあるものの,学問分野での情報を制することにつながりやすい点も見逃せないだろう.欧米諸国が昔から利用して来た国益に結びつく課題がある.代表例に,石油天然ガスの探査開発や,地球温暖化問題などがあるが,学問的発展と共に経済的諸活動が伴うと,必ず国際的な規制が議論になる.国際ルールを自国に有利に展開することは,国際紛争を鎮める方途として,一般に容認されやすい.

 例えば,地球温暖化への対処として,CO2を多量に排出する産業に削減を迫り,排出権取引などで地中貯留のビジネスモデルを確立する動きが欧州で急速に高まっている.日本のように活動的な大地を抱えている国は,国際的には地中貯留に不利と考えられている.現状が進むと,一方的に欧米諸国が提供するビジネスを購入するだけになりかねない恐れも見えてきた.これを避けるには,欧米諸国と同じ土俵で,日本でも地中貯留が可能なことを納得させる場を提供する必要があるのではないだろうか.

 今後ますます,IGCを含めた国際学会での日本人の主導的活躍が普通になることを展望する次第である.

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GSJニュースレター No.1 2004.10
(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
GeologicalSurvey of Japan,AIST