GSJニュースレター No.1  2004.10
"第四紀"が地質年代区分から消える?    斎藤 文紀 (地質情報研究部門)

IGC会場入り口.フィレンツェには,このような城壁が残っている.(撮影:下川浩一)

会場をとりまく城壁の一部.堀が手前にあり,橋の上から撮影.(撮影:下川浩一)

 今回のIGCでは,参加者全員に,今年6月号のEpisodes(vol. 27, no. 2)の別刷が配付された.新しい地質年代区分の論文である(Gradstein et al., 2004).この新しい年代区分では,第四紀(Quaternary)が無くなり,新生代は,NeogeneとPaleogeneの2つのPeriod(紀)に分けられている.学生時代に習った新生代を2分する第三紀(Tertiary)と第四紀の区分が両方とも無くなっている.実は第三紀という用語は,国際地質科学連合(IUGS)の国際層序委員会(International Commission on Stratigraphy: ICS)では,15年前から正式区分からは外されており(Cowie and Bassett, 1989: Ogg, 1996),使用可能な非公式の用語となっている.つまり,今回の改定前の状態で,新生代は,3つの紀から構成されていた(Paleogene, Neogene, Quaternary).そして今回の改定によって,第四紀を構成するPleistocene(更新世)とHolocene(完新世)は,Neogeneに含まれ,新生代は,PaleogeneとNeogeneの2つの紀に分けられた.Quaternaryは,正式年代区分ではなく,鮮新世の最後のstage(階)である2.59Ma以降のGelasian(Ogg, 1996)と,更新世と完新世を合わせた亜紀となっている. 1989年の改訂で,TertiaryはPaleogeneとNeogeneとを合わせた時代となっていたが,今回の改訂によって,今後の使用は難しくなるだろう.

 Neogeneが従来の第四紀を含み,第三紀という用語が正式名称としては存在しないのなら,新第三紀はその訳語として適切でない.Paleogeneの古第三紀も同様である.中国では,すでに新第三紀と古第三紀に替えて,新近紀(Neogene)と古近紀(Paleogene)の訳語を用いているようである.

 今回のこの改定は,ICSでは承認を受けているようだが,Episodesの同じ号に,今回の改定の理由(Ogg, 2004)と国際第四紀学連合(INQUA)の層序年代委員会の委員長の提案(Pillans, 2004)が掲載されている.両者をみる限りでは,ICSもINQUAも,納得して提案しているように感じるが,INQUAからは,今回の改訂に対して執行委員会名の反対意見が出されており(第四紀通信, vol. 11, No. 4),このまま収まるのかどうか,疑問である.米国地質学会が出している年代区分では,Tertiaryは使われており (GSA Geologic time scale 1999),長年使われて,馴染みのある,TertiaryやQuaternaryがICSの提案で,急に無くなるとも思えない.どのように対処するか,様子を見つつ,国内でも議論する必要がある.
 追記:INQUAからの9月23日のメールによると,ICSとINQUAが第四紀に関する合同の作業チームを作成し,2005年9月にベルギーで行われる会合で最終決着がはかられるらしい.

Cowie, J.W. and Bassett, M.G. (1989) IUGS 1989 Global Stratigraphic Chart:      Episodes, 12 (2), suppl.
Gradstein, F.M., Ogg, J.G., Smith, A.G., Bleeker, W., Jourens, L.J. (2004)
A new geological time scale with special reference to Precambrian and Neogene. Episodes, 27, 83-100.
Ogg, J. (1996) A Phanerozoic time scale. Episodes, 19 (1&2), 3-5 & suppl.
Ogg, J. (2004) Introduction to concepts and proposed standarization of the
t
erm “Quaternary”. Episodes, 27, 125-126.
Pillans, B. (2004) Proposal to redefine the Quaternary. Episodes, 27, 127.

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(独)産業技術総合研究所地質調査総合センター
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