日本温泉・鉱泉分布図及び一覧
Distribution Map and Catalogue of Hot and Mineral Springs in Japan
金原 啓司
Keiji Kimbara
地質調査所
Geological Survey of Japan
1-1-3, Higashi, Tsukuba, Ibaraki, 305 Japan
目次
Abstract
1.まえがき
2.利用上の説明事項
2.1 温泉の定義・分類
2.2 温泉・鉱泉索引図区画図
2.3 温泉・鉱泉番号
2.4 温泉・鉱泉地および温泉・鉱泉位置
2.5 温泉・鉱泉地名
2.6 温度・湧出量・pH
2.7 泉質
3.国による温泉統計
4.謝辞
5.文献
5.1 全国の温泉・鉱泉に関する文献
5.2 各都道府県の温泉・鉱泉に関する文献
凡例と略号
日本温泉・鉱泉索引図
付録1 索引
付録2 60℃以上の温泉一覧
付録3 90℃以上の温泉一覧
Abstract
Recent information on 3,865 hot and mineral springs that occur in Japan have been compiled from various publication. The data for each spring was complied into tables consisting of spring number, name, location, temperature(℃), discharge, water type and pH.
Springs are numbered by Prefecture together with the number for each spring from the previous edition (total springs, 2,237) published in 1975. The name is shown in both Japanese and Romaji. The location gives prefecture (abbreviation), district or city and village or town in Japanese.
The water chemistry is classified into 11 types according to the previous edition as follows: 1. simple springs, 2. simple carbondioxide springs, 3. calcium magnesium bicarbonate springs, 4. sodium bicarbonate springs, 5. common salt springs 6. sulfate springs, 7. iron springs, 8. iron sulfate springs, 9. sulfur springs, 10. acid springs, 11. radioactive springs. The main chemical compositions of springs are also given inabbreviated style as combination of major cations and anions such as Na・Ca-Cl・SO4.
The locations and temperatures of the 3,865 hot and mineral springs are shown on a 1:400,000 scale map. The 130 sheets of the map and accompanying tables cover the whole of Japan (47 prefectures).
1. まえがき
野口喜三雄と中村久由は,1957年に地質調査所が出版した日本鉱産誌B-a「水および地熱ー地熱および温泉・鉱泉ー」(207p.)において,全国で835の温泉・鉱泉の分布図と名称・位置・地質・温度・湧出量・泉質・pH・主要成分・特殊成分等の一覧表を取りまとめた.その後,角 清愛は環境庁による全国温泉利用状況調査結果を踏まえて,これに各都道府県からの協力を得ながら,温泉・鉱泉データの取りまとめを行った.その結果,総数2,237の温泉・鉱泉について,その分布図(地質調査所,1975)と名称・位置・温度・湧出量・泉質・pH・地質の一覧表(角,1975)を公表した.
以来17年を経過し,また最近のリゾート・温泉開発ブームもあって,全国に多数の温泉が続々と誕生しつつある.一方では,新エネルギー開発の一環としての地熱開発調査の進展に伴い,地熱地域の温泉についても新ためて分析・検討が加えられ,それらのデータも集積しつつある.このため,角(1975)の「日本温泉・鉱泉一覧」を更に増補・改訂する必要性が生じてきた.
本報告は,角(1975)が取りまとめた総数2,237の温泉・鉱泉を基礎資料として,それ以降に入手した各種の情報・文献等より総数3,865の温泉・鉱泉を抽出し,その分布図と一覧表(名称・位置・温度・湧出量・泉質・pH)を取りまとめたものである.
毎年の都道府県別温泉利用状況が,環境庁により取りまとめられているが(後述する温泉統計参照),昭和56年度以降は温泉地ごとのデータは公表されていない.また,例え新しく温泉が開発されても,その内容が報告書等により体系的に公表される機会は少ない.
本報告の一覧表に掲載した温泉・鉱泉(温泉地とは限らない)データは,一部未公表を含む各種公表文献の他に、新聞・口頭情報や通俗的(観光案内的)資料によって得られたものであり,その位置等を一々現地確認したわけではない.このため,今回の編集作業結果は,めまぐるしく変化する我国の温泉・鉱泉の現在の分布実態を必ずしも正確に示しているわけではなく,内容的には不完全,かつ不正確の謗りを免れない.本報告の利用に当たっては,この点に十分留意されることを念願し,また内容についての御叱正をいただければ幸いである.
2.利用上の説明事項
2.1 温泉の定義・分類
温泉は温泉法第2条により,第1表のように定義されている.また,鉱泉分析法指針(改訂)(環境庁自然保護局、1978)により,温泉は泉温,液性,滲透圧に基づいて,第2表のように分類されている.
2.2 温泉・鉱泉索引図区画図
索引図の区分は,国際連合経済社会部地図課で実施している「100万分の1国際図索引組織」の区分に従った. 100万分の1国際図によれば,日本列島は東から西に向かってU.T.M.(Universal Transverse Mercator、ユニバーサル横メルカトール)座標帯の51〜55帯(各帯の経度差は6゜で,その中央は中央子午線と呼ばれる),また南から北に向かって北半球(N)のG〜L帯(各帯の緯度差は4゜)に区分される.この結果,日本列島のU.T.M.座標帯の区分は東から西に向かって,また同じ帯であれば北から南に向かってNL-55(網走),NK-55(釧路),NL-54(稚内),NK-54(札幌),NJ-54(仙台),NI-54(東京),NG-54,NJ-53(金沢),NI-53(大阪),NI-52(長崎),NH-52(鹿児島),NG-52,NG-51の順となる.
編集作業を行うに当たって,日本列島をカバーする総数130枚の国土地理院発行20万分の1地勢図を,上記区画順に,また同一区画内では北から南,さらに同一緯度の場合は西から東の順にNo.1(蕊 取)〜No.130(石垣島)までの番号づけを行った.なお,130枚のうちNo.1, 3, 6, 7, 10, 12, 66, 101, 115, 118, 123, 124,125, 126, 128, 129, 130の17枚については,現時点では温泉・鉱泉が認められない.
2.3 温泉・鉱泉番号
温泉・鉱泉番号は,上記20万の1地勢図番号順に,また同一地勢図内では原則として北から南に,また緯度がほぼ等しい場合は西から東の順に,各都道府県ごとに番号が1から順に増すようにした.ただし,作業の途中で番号を入れ替えたものがかなりあり,その場合は順不同である.なおNI-53(大阪)については,対象地域が広いので地勢図を東西に2分するとともに,地理的関係からNJ-53(金沢)の一部(No.85西郷)をこれに含めた.
2.4 温泉・鉱泉地および温泉・鉱泉位置
温泉・鉱泉地は,おおむね1973年時点までの温泉・鉱泉地データを整理している角(1975)と,環境庁が実施した昭和55年度全国温泉利用状況調査(塚本,1982)を基礎資料として抽出した.
角(1975)では,総数2,237の温泉・鉱泉地データが整理されている.本報告の一覧表では,具体的データが記述されていない一部の温泉・鉱泉地を削除した上で,残りを旧No.としてその番号を記し(但し,名称については変更したものがある),今回の新No.との対応関係を明確にした.また,塚本(1982)では昭和55年度(1980年度)時点での2,053の温泉地が記述されているが,温泉地名のみからではその位置が特定できないものがかなりあり,これらはすべて除外した.ただし,地図上で地名として確認できた温泉地については,たとえ不確かであっても,その付近を温泉地としてマークした.なお,北方領土については適当な文献が見当たらなかったので,一部を除いて記述していない.
以上の文献では,最近15年間ほどにわたって開発された新しい温泉・鉱泉についての情報を得ることはできない.このため,新聞・口頭情報の他に,全国温泉案内1800湯(日本交通公社出版事業局,1987),諸国いで湯案内1〜7(美坂哲夫、1988; 1989),および一部未公表を含む各都道府県の衛生研究所研究報告の類,各種学術雑誌,地熱調査報告書等の最近の文献資料を参考にして,可能な限り新しい温泉・鉱泉の発掘に努めた.なお,引用した文献は総括的なものと都道府県別のものを区別して,それぞれ文献欄に示した.
位置が地図上で確認できた温泉・鉱泉は,国土地理院発行の20万分の1地勢図上にその位置をプロットし,これを索引図とした.角(1975)の温泉位置については,当時作業を行った全国の20万分の1の地勢図が残されていたので,明らかな間違いは訂正の上,そのまま索引図として利用した.なお,新潟,栃木,群馬の3県については,地質調査所が地熱資源評価の研究のために準備中の20万分の1温泉位置図を参考にした.
索引図の製図に当っては,国土地理院発行の50万分の1地方図を5/4倍に拡大して40万分の1とし,これを20万分の1地勢図の区画に断裁したものを基図として使用した.次に,温泉・鉱泉位置をプロットした20万分の1地勢図を1/2倍に縮小して40万分の1とし,その位置を上記基図上に転写した.なお,両者の地図間に生じた地形図上の不一致点はすべて無視し,機械的に基図への転写・製図を行った.
本報告に掲載した総数3,865の温泉・鉱泉は,一々現地確認を行った訳ではないので,重複していたり,過去には存在していたが,現在は枯渇したり,廃業したりして存在していないものがかなり含まれている恐れがあると思われるので,利用に当たってはこの点も十分留意していただきたい.なお,地勢図上にプロットした温泉 ・ 鉱泉所在地の行政区画は,主として人文社(1988)発行の「日本分県地図'89地名総覧」によった.
2.5 温泉・鉱泉地名
温泉・鉱泉地の名称は,角(1975),全国温泉案内1800湯(日本交通公社出版事業局,1987),諸国いで湯案内1〜7(美坂哲夫,1988; 1989),日本分県地図'89地名総覧(人文社,1988),及びその他の各種文献類を参考にしてつけ,その読み方はローマ字で表示した.なお,地名が不明な温泉・鉱泉については,その付近の地名を暫定的につけた.また,読み方が不明な温泉についても暫定的な読み方をつけた.
温泉・鉱泉地の名称は,巻末の索引にも示すように,俗称や類似・同一名が非常に多く,紛らわしい.このため,複数の名称で呼ばれていると判断された温泉については,必要に応じて( )書きで併記した.
2.6 温度・湧出量・pH
一覧表に示した温度は,その温泉地における最高温度を記載した.温度が不明な温泉・鉱泉のうち,段階表示が可能なものについては,塚本(1982)の分類に従って,<25℃,≧25℃ <42℃, ≧42℃の表示を行った.本報告の一覧表に掲載した3,865の温泉・鉱泉について,各都道府県ごとに,不明および,<25℃,≧25℃ <42℃, ≧42℃ <60℃,≧60℃ <90℃, ≧90℃の5つの温度段階に区分して,その数を第3表に示した.また,泉温の頻度分布をグラフにして示したのが第1図であり,25℃未満の温泉・鉱泉が全体の約45%を占めている.温度データのある3,344の温泉・鉱泉について,泉温を5℃間隔でグラフ化して,その頻度分布を示したのが第2図であり,これを各都道府県ごとに示したのが第3図である.第2,3図から,泉温の頻度分布について色々考察することが可能であるが,ここでは触れない.いずれにしても,最近の温泉開発は深度1,000〜2,000mと次第に深くなる傾向にあり,これまでその存在が全く知られていない場所からも新しい温泉が続々誕生しつつあることに十分留意して,泉温の頻度分布を見る必要がある.
湧出量は,原則として塚本(1982)によったが,それ以降の新しいデータが存在するものについては,その文献値を引用した.なお,湧出量が複数の温泉地の合計で示されている場合は,1つの温泉地で代表させ,他の温泉地には( )書きでその値を示した.本来湧出量は自噴と動力に区別して表示すべきであるが,ここではその区別を行っていない.
pHは角(1975)のデータを引用したが,それ以降の分析値があるものについては,その値もしくはその範囲を示した.
2.7 泉質
泉質は,鉱泉分析法指針(改訂)(環境庁自然保護局,1978)による新泉質名を略記新泉質名欄に記入した.また,角(1975)で採用していたI〜XIの11種の泉質表示も,比較のために旧泉質名欄に1〜11の数字で記入した.なお,新 ・旧泉質の対応関係は第4表に示す通りである.
塚本(1982)に「主たる泉質名」が略記法で記載されている温泉・鉱泉は,その泉質名をそのまま引用した.また,引用文献中に泉質名が明記されている場合も,同様にその泉質名を引用した.文献中に泉質名が明記されていなくても,化学分析値が掲載されているものについては(一々明記していない),溶存物質量が1g/kg以上の塩類泉はmval値の最も高い成分(またはそれに続く特徴的成分)を列記し,略記新泉質名欄に記入した.なお,鉱泉分析法指針(改訂)では,塩類泉はmval%が20以上の成分を,多い順に列記することになっているので,ここで求められた泉質はあくまでも参考である.詳しくは文献欄に示した各文献を参照していただきたい.溶存物質量が1g/kg未満の単純泉についても,化学分析値があるものは塩類泉に準じて,mval値の最も高い成分(またはそれに続く特徴的成分)を略記新泉質名欄に( )書きで示した.ただし,この場合の( )書きは鉱泉分析法指針(改訂)による泉質ではない.
1〜11の数字で泉質(旧泉質)が与えられている3,659の温泉・鉱泉について,その頻度分布を示したのが第4図である.本図によれば,日本の温泉・鉱泉では,5(食塩泉)が最も多く(27%),以下1(単純泉,26%),9(硫黄泉,14%),4(重曹泉,8%),11(放射能泉,8%),6(硫酸塩泉,7%),7(鉄泉,6%)が続く.第5図は,各都道府県ごとにこれらの泉質比率を示したものである.なお,泉質は地質(貯留母岩)と密接な関係があると思われるが,ここでは触れない.
3. 国による温泉統計
昭和9年時点での,我が国の最初の温泉統計が内務省衛生局によりまとめられている.それによれば,日本では当時温泉地数868,源泉総数5,889,湧出量236,329/分であった.戦後,行政当局により温泉統計作成の努力が払われてきたが,結果的には昭和29年になって厚生省国立公園部の手により戦後初の温泉統計が完成している.それによれば,昭和29年12月31日時点で温泉地数1,133,源泉総数8,452,湧出量576,215/分であった.
その後,昭和44年度までの温泉統計は厚生省国立公園部管理課が,また昭和45年度以降は環境庁自然保護局企画調整課(昭和49年度からは施設整備課)が年度ごとの温泉統計を作成し,公表している.なお,現在のような「都道府県別(全国)温泉利用状況一覧」という形で公表されるようになったのは昭和42年度以降である.昭和55年度までは,都道府県の温泉地ごとのデータが公表されていたが,それ以降は都道府県単位の総括表のみが公表されている.最新の平成2年度の統計によれば,温泉地数2,360,源泉総数22,353,湧出量2,224,572/分である.これは昭和9年時点に比較して,約58年間で温泉地数2.7倍,源泉総数3.8倍,湧出量9.4倍に増加したことになる.
第5表は様々な文献に掲載され,公表された上述の温泉統計を年度別に簡略化整理したものである.このうち,昭和25年以降の源泉数と湧出量の年度別推移をグラフ化したのが第6図である.この図からもわかるように,過去20年間に源泉数,湧出量ともにほぼ直線的に増加しており,前者で1.4倍,後者で1.5倍となっている.4. 謝辞
本報告を作成するに当たっては,全国の最新の温泉データを収集することが必要不可欠であった.しかしながら,最近の温泉開発ブームにもかかわらず,この種のデータが公表される機会は非常に少ない.このため,本報告のような形の「温泉・鉱泉分布図及び一覧」を,公表文献類や新聞・口頭情報のみからまとめ上げるには,かなりの困難があった.
そのような状況下にあって,地殻熱部の高橋正明技官および環境地質部の野田徹郎技官が全国の地熱資源評価を行うために収集した多数の温泉分析データ,および文献類が本作業を進める上で大いに役立った.
地質部(当時近畿・中部地域地質センター)の栗本史雄技官からは,大阪周辺の最近の温泉開発状況について,多くの情報をいただいた.また,高橋正明技官および海洋地質部の有田正史技官を通じて高知大学の甲藤次郎名誉教授からは,高知県下の温泉について貴重な情報をいただいた.
日本重化工業(株)の角 清愛博士が,1975年(当時地殻熱部地殻熱資源課長)に出版した「日本温泉・鉱泉一覧」作成のために準備した全国の20万分の1温泉分布作業図は,本報告の索引図を仕上げる上で大変参考になった.なお,報告を仕上げる上で必要不可欠であった温泉・鉱泉データの入力および出力は情報解析課の野呂春文技官の全面的なお世話になった.これらのデータは全てフロッピーディスクで収納されているので,今後の修正・拡張・利活用は比較的容易である.また,英文要旨は地殻熱部に滞在中の Kelvyn Youngman博士に目を通していただいた.
本報告を出版するに当たり,お世話になった以上の方々に厚くお礼申し上げる次第である.