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第5回地質写真コンテスト審査員 白尾元理氏の総評

  今回の地質写真コンテストは、第4回(2007年3月)以来2年ぶりで、応募数も前回とほぼ同数の109点でした。 地質のプロが撮影したのにふさわしい内容の写真が多く、楽しみながら審査することができました。とくに印象に残 ったものについて講評します。

  今回、3人の審査員の全員一致でグランプリに選ばれたのは、古川竜太さんの「フォッサマグナで最も険しい 渓谷の調査」(3点組写真)です。フォッサマグナ北端に位置する海川不動川を撮影したもので、険しいゴル ジュ(左右に谷壁のせまった峡谷)での調査風景です。徒渉、泳ぎ、ずぶ濡れになりながらのハーケンを打ち 込んでの滝の登攀、と困難な調査のようすが伝えられています。写真中の人物の占める大きさや配置が適切で、 峡谷をつくる鮮新世の水中火山岩もきちんと描写されています。また狭い峡谷の中では十分な光量がなかった り、一部にのみ強い太陽光が当たったりして露出をコントロールが非常に難しいのですが、最適な撮影場所に 立って、きちんとした写真と撮ろうという強い意志が感じられます。このような写真を見て、自分も将来はフ ィールドジオロジストになろうと決心する若者もいるかもしれません。

  今回のコンテストでは、多くの鉱物写真の応募がありました。これは、地質標本館主催のジュニア石博士講座 第3回(2008年12月)で鉱物撮影の実習があったからです。参加者は小学校高学年が中心で、撮影する鉱物は自 分の自慢の鉱物でも標本館が用意した標本でもよく、標本館が用意したデジタルカメラ+マクロレンズ+照明 機材を使っての撮影です。参加者は鉱物のセッティング、向き、照明、拡大率などを各自で工夫しながら撮影 したということです。鉱物写真から入選、入館者賞、奨励賞の合計8点が選ばれました。

  入選作の中谷公昭さんの「黄銅鉱」は、一見地味な黄銅鉱を照明や背景を工夫して浮き立たせ、微妙な構造や 色彩をみごとに表現しています。入館者賞の窪田真弓さんの「最後の砦……水晶の晶群」は御自分で所有して いる標本を地質標本館に持ち込んで撮影したものです。説明文にも撮影標本への格別な思い入れが書かれてい ますが、その思い入れが写真を見る人にも伝わる写真の力強さがありました。

  入選作の住田達哉さん・畠山真紀さんの「岩手山精密重量探査風景」(4枚組写真)は、青空の広がる岩手山山 腹での重力探査のようすを撮影したもので、爽快感のあふれる組写真です。山頂、雲海の広がる山腹、山腹を 被う1686年の噴出物、GPSやラコステ重力計を使った調査風景など、4枚の写真を使って調査のようすがうまくま とめられています。惜しいのは調査風景の前面に大きなザックがきてしまったことで、観測機材がより大写し にされるべきでした。

  入選作の佐藤努さんの「その露頭は世界遺産!?」(2枚組写真)は、2004年に世界文化遺産に登録された熊野 古道を題材にしたものです。古道は現地調達主義でつくられているので、熊野酸性岩からなる整然とした石畳と 上部白亜系の砂泥互層からなる質素な山道の写真をうまく対比させて説明しています。写真をよくみると2枚と もブレていますが、題材の選び方と解説文の巧みさで入選となりました。

上記の写真以外にも優れた作品が数多くありましたが、物足りなさを感じたのはデジタルカメラの進歩に追いつ くような作品がほとんどないことです。最近のデジタルカメラでは多画素数や高感度化はもちろんのこと、近接 性能、パノラマ合成機能、防水性等によって、かつてのフィルムカメラでは考えられないほどの撮影領域の広が りを見せています。次回のコンテストでは、従来の機材による優れた作品と共に、デジタルカメラ+画像処理に よるびっくりするような地学写真も見られることを期待いたします。
白尾元理

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