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第4回地質写真コンテスト審査員 白尾元理氏の総評

 今回の地質写真コンテストは2年ぶりということで、応募点数が少ないのではないか、レベルはどうだろうかと心配していました。しかしふたを明けてみると、応募数も前回の2倍近くの115点で、内容も優れたものが多く、楽しみながら審査することができました。とくに印象に残ったものについて講評します。

 今回、3人の審査員の全員一致でグランプリに選ばれたのは、宍倉正展氏のアンダマン諸島で撮影されたスマトラ沖地震の被害写真です。宍倉氏は諸島南東部で沈降して海水につかったココナッツ林を、諸島北西部で隆起したサンゴ礁を撮影され、それぞれ2点ずつの組写真として別々に応募されました。しかし沈降と隆起を一緒にした方が巨大地震の脅威を実感できるということで、4点合わせた組写真として審査し、グランプリとしました。ココナッツ林の1点は順光で被害状況を伝え、もう一点では夕焼けの逆光で風景写真として成功しています。隆起したサンゴ礁の1点では、死滅したサンゴの向こうでボートで魚採りをする漁民の日常生活をとらえ、もう1点ではサンゴの脇にスケール尺を置いて、隆起量を示しています。スケール尺ではなく、人間をスケールとして隆起量を示せば、科学写真臭さがなくなったのにと惜しまれます。それにしても、地球の「いま」を伝える素晴らしい組写真でした。

 特別賞に選ばれたのは、岸本清行氏のスペースシャトル等のSARデータから作成した立体画像です。「A4判まで」という応募規定を無視したポスターサイズで、グランドキャニオン周辺・アフリカのアファー三角帯の拡大画像とアフリカ大陸周辺の画像を応募されました。赤青メガネを使って見る実体視は迫力満点で、ポスターサイズでの応募の理由も理解できます。観光地として人気のあるグランドキャニオンと離れゆくプレート境界で注目されるアファー三角帯を選択したのも正解です。また海水を取り除いた地球の大地形を実体視で見ていると、火星・金星・月などの大地形の違いが一目瞭然です。博物館や科学館などに常設展示したら、入館者もどんなに楽しめるだろうと想像しました。

 入選作品の中では、斉藤元治氏のビシャリカ火山の写真が、うまいと感じました。山麓からみた雪をいだいた遠景、登山中の様子、山頂火口の溶岩の3枚組ですが、写真のそれぞれが美しく、組み合わせも適当で、行ってみたくなります。

 入選作品の中で、撮り方がおもしろいと感じたのは大和田道子氏の浅間山2004年9月16日の噴火をとらえたものです。降っている最中の火山灰を撮影するのは非常に難しいものですが、フラッシュを発光させることによってこれに成功しています。

 入館者賞に選ばれた須藤茂氏の沈み行くサンゴ礁は、地球温暖化によって水没の危機にさらされているパプアニューギニアの環礁を空撮でとらえたものです。空から見るとあと数十センチも海面が上昇すれば、住めなくなって移住せざるをえない状況が手に取るようにわかり、考えさせられます。

 紹介した以外の写真にもそれぞれ持ち味があり、特に入選作品はレベルが高いものが多くありました。地震被害、火山噴火はそれほど頻繁に起こる現象ではなく、特別な地域への調査も毎年行けるような人は多くはないと思います。そう考えると本コンテストも2年に1回の開催とし、よい作品を撮り貯めておいて発表する場にするのがよいと思いました。次回のコンテストでも、すぐれた地学写真を多数見られることを期待いたします。
白尾元理

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