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内田洋平
written by Youhei Uchida
利尻山と湧水 : 地質調査総合センターで地下水の研究に携わる内田洋平が一般の方を対象に易しく書き下ろした利尻山の湧水に関する記述です。
利尻火山 : 地質調査総合センターで火山の研究に携わる石塚吉浩が自分の報告ページにまとめた利尻火山の研究レポートです。
利尻山と湧水
利尻島は、北海道稚内市の南西およそ40kmの海上にある周囲61kmの火山島で、200万年前に海底噴火によって生まれました。8km隣の礼文島はそれ以前の海底隆起で誕生し、まったく異なる形成過程を持っています。利尻島の中央にそびえている利尻山は別名利尻富士とも呼ばれ、日本百名山選では北の秀峰として最初に登場します。貴重な高山植物の生息地としても知られ、標高1721mの頂上からは島全体をはじめ、好天に恵まれた日には礼文島、サロベツ原野、樺太まで見渡すことが出来ます。利尻山は、幾たびにもわたる火山活動の噴出物が積み重なってできた「成層火山」であり、約9万年前までには現在のような山が形成されていたと考えられています。 現在は火山活動を停止しているために、山体は標高500m以上では著しく浸食され、それよりも下では緩傾斜の溶岩台地または扇状地形を示します。島内でもっともよく見ることのできる溶岩は 7~3.7万年前に流れた玄武岩質の「沓形溶岩」で、丸みを帯びた細かい穴が多数空いているのが特徴です。この溶岩は、南の島・ハワイ島の「パ・ホイホイ溶岩」と同じものです。
また、利尻島には名水百選に選出された湧水「甘露泉」があります。この「甘露泉」は利尻山の鴛泊登山ルートの三合目付近(標高290m)にあり、誰もが「甘い」と表することが、この名の由来であるといわれています。利尻山の山腹に見られる浸食谷は涸沢ですが、溶岩流や扇状地の末端部である海岸付近では湧水や河川を見ることができます。つまり、山頂付近にもたらされた雪や雨は一度火山体内部に浸透し、ふたたび山麓の低地に顔を出すのです。甘露泉も利尻島全体の地下水流動を反映していると考えられ、しかも一年を通じて流出するもっとも標高の高い湧水です。このような湧水や河川は利尻島の東半部に集中し、西半部ではほとんど存在しません。
一方、利尻島は周囲の海底に地下水が湧き出すことでも知られています。火山性堆積物に覆われた利尻島はその北東側を除いて大きな恒常河川がなく、地下水が海中に流出しているのです。この海底湧水は、古くから漁業従事者によってその存在が確認されており、これらの海底湧水は島の周囲に点在しています。この利尻島において、「甘露泉」と「海底湧水」は、標高的に見て天水が再度地表に顔を出す両端に位置しているのです。
雄忠志内の海底湧水(海底部)。
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丸井ほか (1999、地下水学会誌、41) に基づく
利尻島の地質図(20万分の1地質図「天塩」の一部)。
著者:秦光男・植田芳郎・松田武雄・杉山友紀(地質調査所発行)
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地質図の入手方法はこちらです。