本ページに掲載された写真等のコンテンツには「政府標準利用規約(第2.0版)」が適用されないものがあります。[2018年 6月28日] |
地質で語る百名山 トップへ
内田洋平
written by Yohei Uchida
多摩川の源流―笠取山
多摩川は東京都の西部から南部を流下し、東京都と神奈川県の都県境を流れ、東京都大田区羽田地先で東京湾に注ぐ、幹川流路延長138km、流域面積1,240km2の一級河川です。また、多摩川は首都圏を流れ東京湾に注ぐ一級河川の中では勾配が比較的急な河川であり、上流部は、御岳渓谷や秋川渓谷などの富んだ清流となっており、その大部分は秩父多摩甲斐国立公園に指定されています。
多摩川の源流は、山梨県塩山市の笠取山(標高1,953m、写真1)にあります。笠取山は関東山地に属し、地質は白亜紀四万十帯小河内層群に分類されます。笠取山へは、一ノ瀬高原から東京都水道局が整備した「水源地ふれあいのみち・源流のみち」をたどります。河床は森の中に一歩入ると美しい水の流れとともに鮮やかな緑色に輝く苔が見られ、水が非常にきれいなのでイワナが生息しているとのことです。笠取山は小河川が非常に良く発達しており、登山道を歩いているとあちらこちらに小川を見ることができます(写真2)。笠取小屋を通り過ぎて比較的なだらかな地形のあとに急な傾斜でそびえたつ笠取山山頂が目に飛び込んできます。笠取山の手前約1,000mには小さなピークがあり、3つの河川の分水嶺となっています(写真3)。このピークの東側に降った雨は関東平野の西部を潤す荒川となり、東京湾へ流れます。西側に降った雨は甲府盆地を南下した後、富士山の西側を通り抜け太平洋に注ぐ富士川となります。そして、南側に降った雨が多摩川となるのです。ほんの少し離れた位置に落ちたばかりに、雨水の運命は東・西・南とわかれ、それぞれの河川として流れ下ることになるのです。
写真2 良く発達している小河川 |
写真3 分水嶺の碑 |
笠取山の頂上から約100m下の南懐には水神社の祭られた「水干」があります。以前は小さな祠がありましたが、現在は無くなっています(写真4)。ここからしみ出す一滴がミズヒ沢~一之瀬川~丹波川~多摩湖~多摩川という経路をたどります。水干は、明治11年(1878年)、多摩川水源地の調査に当たった東京府吏員の山城祐之が、地元の猟師に案内され行き着いた場所です。水干(水乾(みずひ))とは、沢の行き止まりを指す名詞で、「多摩川の水干」と呼ばれていたものが、いつの間にか「水干」で通じるようになったようです。水干の水はすぐに伏流し、下部60mほどで再び湧出します。そして、東京湾までの138kmの長い旅に出発します。
写真4 昔あった水干祠の跡。 岩にくぼみが掘ってある。 |
図1 笠取山付近の地質図 |