本ページに掲載された写真等のコンテンツには「政府標準利用規約(第2.0版)」が適用されないものがあります。[2018年 6月28日]

地質で語る百名山 トップへ

title-ibuki.gif

斎藤眞
written by Makoto Saito

伊吹山は新幹線に乗って大阪方面へ向かうと,米原の手前で右手に見える山です(写真1). 山の西側が大きく削れています.伊吹山で石灰岩を掘っていることを知っている人の中には, あんなに自然破壊をして・・・」と言う人もいます.でも実は白く山肌が露出しているところは元々あった石灰岩の崩壊地で,掘っているところは上部です(写真2).

伊吹山は岐阜県春日村と滋賀県伊吹町の境にあって,豪雪地帯であることや,山頂付近の薬草で有名です.また岐阜県春日村では石灰岩の崩れたものが,再度固結してできた "さざれ石"でも有名です.

岐阜県関ヶ原町から伊吹山ドライブウェーが開設されており,南東側の尾根から東側の山腹を通って山頂北側まで通じています(写真3).頂上からの眺めは最高で西には琵琶湖,東には濃尾平野を見渡すことができます(写真4,5).


写真1
滋賀県山東町三島池から伊吹山南面を望む .

 

 

 

 

写真2
滋賀県山東町三島池から石灰石鉱山を望む.現在の石灰石の採掘現場は写真中央上の平坦地.写真左下の白いところは元々の崩壊地.現在この崩壊地の上半部は植生の回復が図られている.

 

 

 

写真3
岐阜県春日村岩手峠北方より伊吹山東面を望む.

 

 

 

 

写真4
伊吹山山頂から大垣方面(東方向)を望む.

 

 

 

 

写真5
伊吹山山頂から琵琶湖(南西方向)を望む.

 

 

 

 

地質図
伊吹山周辺の地質図(5万分の1地質図幅「近江長浜」(1957))

伊吹山の地質

伊吹山は1970年代まではすべて古生代の地層でできていると考えられていました.このため, 今でも"古生代の地層"と本やwebで書かれていたりします.しかし今ではこれは間違いです.
伊吹山をつくる地層は,ジュラ紀の中頃に,海洋プレートが大陸の下に沈み込む時に, 海洋プレート上の石炭紀後期?ジュラ紀中期までの地層が,大陸の縁にくっついてできたものです. 大変複雑な地層で,付加体と呼ばれます.
細かくみると,伊吹山の上半分は主に石灰岩(ペルム紀)でできていて,下半分の砂岩, 泥岩(ジュラ紀),チャート(三畳紀-ジュラ紀)からなる地層の上に断層で重なっています. その断層は山頂の東側では,肩のところにあるドライブウェーの駐車場のすぐ上にあり, 南側はスキー場の上付近,西側では山麓ないし地下にあります.石灰岩の部分が急傾斜になっているので,地形からも地層の違いはだいたいわかります.この石灰岩は岐阜-滋賀県境の尾根の上の方だけに低角な断層で乗っかっているのです.
また,伊吹山の山麓を伊勢湾から若狭湾につながる柳ヶ瀬-養老活断層系に属する活断層が走っていて,この活動が伊吹山を南側からみるとそそり立っているように見える地形をつくったと考えられます.

石灰岩鉱山

伊吹山の西側では滋賀鉱産(株)伊吹鉱山によって石灰岩の採掘が行われています.2003年3月までは住友大阪セメント(株)伊吹鉱山として,セメント向けを中心に採掘が行われていましたが,現在は骨材,路盤材向けに採掘が行われています.この石灰岩鉱山の部分は,この付近の地層ができあがって以降の断層運動による破砕が認められ,古くからの崩壊地となっています.鉱山の初期は崩壊地の下でこの崩壊物だけを採っていました.現在はこの崩壊地の上部を採掘しており,最終的には急傾斜の破砕を受けた石灰岩や石灰岩の崩壊物を採掘して安定した山腹になる計画です.緑化も採掘地だけでなく,崩壊地に対しても行われています(現地取材2001年5月).


写真1, 2, 3及び文: 斎藤眞(地質情報研究部門)
写真4, 5: 河合卓哉(岐阜県多治見市)

参考文献

礒見博(1956)5万分の1地質図幅「近江長浜」 及び同説明書. 地質調査所,57p.(説明書の出版は1956年,地質図幅の出版は1957年)
Miyamura, M. (1967) Stratigraphy and geological structure of the Permian formations of Mt.Ibuki and its vicinity, central Japan. Geol. Surv. Japan Report, no. 224, 41p.
杉山雄一・粟田泰夫・吉岡敏和 (1994) 柳ヶ瀬?養老活断層系ストリップマップ. 地質調査所.
脇田浩二・原山智・鹿野和彦・三村弘二・坂本亨・広島俊男・駒沢正夫 (1992) 20万分の1地質図幅 「岐阜」. 地質調査所.
山本博文 (1985):根尾南部地域および伊吹山地域の美濃帯中・古生層. 地質雑, 91, 353-369.

地質図の入手方法はこちらです。