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地質で語る百名山 トップへ

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佐藤岱生
written by Taisei Sato

古い流紋岩の山

今回は遠見尾根から五龍岳・鹿島槍ヶ岳の地質を御紹介しましょう。ついでに岩石の色について考えてみましょう。色の道はきびしいのでいろいろな例外もあるかもしれませんが、思い切って単純に見てみましょう。

岩石の色と化学組成

岩石はいろいろな種類の鉱物の集合からできています。混ざっている鉱物の色によって岩石の色が決まると考えてもそれほど間違いではないでしょう。とは言っても、それは岩石の化学組成が深く関係しているのです。

火成岩は、珪酸(SiO2)が多いもの(約66重量パーセント以上)を酸性岩、少ないもの(約42~52%)を塩基性岩、きわめて少ないもの(約42%以下)を超塩基性岩と言います。この酸性・塩基性という用語は化学用語の酸性・アルカリ性あるいは pH とはまったく無関係です。混乱しやすいので最近は珪長質・苦鉄質という言葉が使われています。

珪長質という言葉の「珪」は珪酸(SiO2のみの鉱物としては石英)を、「長」は長石を意味しています。珪酸成分が多いマグマからは石英や長石が多く晶出します。一方、珪酸成分の少ないマグマでは代わりにマグネシウム(苦土と言う)や鉄分が多くなるので苦鉄質といいます。

珪酸成分の多い石英や長石などは一般に白色、マグネシウムや鉄分の多い黒雲母・角閃石・輝石などは黒色となる傾向があります。これが、珪長質の岩石は白色となり、苦鉄質の岩石は暗い色になる理由です。

遠見尾根

遠見尾根から鹿島槍にかけての地域は、主として二畳紀末期の超塩基性岩と白亜紀後期から古第三紀にかけての花崗岩や珪長質の火山岩(酸性火成岩類)から構成されています。


5万分の1地質図「大町」(地質調査所1989年発行)の一部。
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五竜遠見スキー場のゴンドラで地蔵の頭まで行ってみましょう。ここでは明瞭な崖などの露頭はありませんが、その辺りに落ちている石を見ると、真っ黒な石がほとんどです。この石をジオロジストは超塩基性岩といいますが、正確には超塩基性岩のうちのダンかんらん岩です。この岩石は、約2億5千万年前の日本列島の土台を作った青海蓮華帯という地質構造帯を構成している岩石のひとつです。

地蔵の頭からわずかに遠見尾根方向に下った鞍部のところから、粗粒で淡いピンク色をした花崗岩が露出しています。これは、約6千5百万年前の白亜紀と古第三紀の境の時代に形成され、有明花崗岩と呼ばれています。有明花崗岩は燕岳や大天井岳付近まで広がる分布面積の広い花崗岩体です。中房温泉近くの有明山にちなんで命名されました。

大遠見山の手前で珪長岩の岩脈を見ることが出来ます。細粒の岩石なので道に白い粉を撒いたように見えます。

西遠見山の付近では3カ所ほどで地蔵の頭で見たのと同じ超塩基性岩が露出しています。有明花崗岩と爺ケ岳安山岩に取り込まれた捕獲岩体です。

遠見尾根の上部から白岳頂上を通り五竜山荘付近までは爺ケ岳安山岩が分布しています。爺ケ岳の主峰を作っているのでこの名が付けられました。花崗岩は地下の深いところでマグマからゆっくり固まった深成岩ですが、安山岩は珪酸成分60%前後(中性)のマグマが地表に流れ出して固まった火山岩です。ここでは、緑色かかった黒色の基質に白い斑点状の斜長石の斑晶が見える岩石です。白岳の山頂や五竜山荘の付近でよく観察できます。

五龍岳から鹿島槍へ

五竜山荘から五龍岳へ向かう尾根上にはシラタケ沢凝灰岩が分布しています。比較的やわらかい岩石なので尾根もなだらかです。他の火山岩や頁岩の岩片を含んでいます。

尾根が急になるあたりから五竜流紋岩になります。この岩石は少量の斜長石の斑晶を含み、淡い緑色−灰色をしており、緻密で硬い流紋岩溶岩です。細かい縞模様(流紋)があります。


五竜流紋岩。
五竜岳三角点付近で。斜長石の斑晶と縞模様が見える。
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五龍岳から鹿島槍側に下ったあたりでは、比較的細粒の花崗岩が岩脈状に五竜流紋岩を貫いています。尾根上を鹿島槍に向かって歩いて行くと外来岩片の多い北股溶結凝灰岩が分布するようになります。


五竜岳から見た鹿島槍ヶ岳。
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キレット小屋の直前で溶結凝灰岩から細粒の花崗岩にかわります。これは金沢花崗岩と呼ばれ、鹿島槍ヶ岳山頂もこの花崗岩からできています。長径が20~40cmの楕円形の暗色包有物が非常に多く含まれています。

生い立ち

これらの岩石の関係に付いて見てみましょう。有明花崗岩の上に爺ケ岳安山岩の溶岩が流れ、それをおおってシラタケ沢凝灰岩が堆積しました。さらにその上に五竜流紋岩、北股溶結凝灰岩の順で積み重なっています。これらの火山岩類をつらぬいて金沢花崗岩が迸入(へいにゅう)しています。そのためにこれらの火山岩類は、金沢花崗岩に近い部分ではその熱で焼かれて熱変成岩になっています。

五竜流紋岩などの火成岩類が形成されたのは4~6千万年前です。たとえば約30万年前から活動を始めた富士山と比較すると非常に古い火山であることが分かるでしょう。

この地域が激しく隆起を始めたのは60~70万年前で、現在までに約2千メートル上昇したと考えられています。このスピードは1年につき3~4mmになり、非常に急激な隆起といえます。

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