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地質で語る百名山 トップへ

 阿寒岳は,阿寒国立公園の西にあり,阿寒湖には特別天然記念物のマリモが生息しています.毎年,美しい阿寒湖やコバルトブルーのオンネトーを見に,大勢の観光客が訪れます.オンネトーの西には,微生物の働きでマンガン鉱床ができつつある北海道で最も新しい天然記念物(2000年に指定)の湯の滝もあります.阿寒岳は,単独の山ではなく,雄阿寒岳,雌阿寒岳,フレベツ岳,フップシ岳などの火山群の総称です.さらに雌阿寒岳は中マチネシリ・ポンマチネシリ・阿寒富士・南岳・西岳・北山・東岳・1,042m山の8つの火山体に分かれます.これらの阿寒火山群は北東-南西径24km,北西-南東径13km,面積244km2の楕円形をした阿寒カルデラの中にあります.

オンネトーと雌阿寒岳(左が中マチネシリ,右が阿寒富士)(宝田 晋治 撮影)
オンネトーと雌阿寒岳(左が中マチネシリ,右が阿寒富士)(宝田晋治 撮影)


湯の滝 (中川 充 撮影)
湯の滝 (中川 充 撮影)

テクトニクス

 北海道の地形図を見ていただければわかるように,知床半島の硫黄岳,羅臼岳,遠音別岳から斜里岳,屈斜路・摩周カルデラの火山群を経て,阿寒火山群に至る北東-南西方向に延びた火山列が総延長140kmにわたって連なっています.この火山列は阿寒知床火山列と呼んでいます.この火山列の東側には,国後島や択捉島の火山列があります.また,西側には大雪山や十勝岳の火山列があります.これらの火山列は雁行状に配列しています.この雁行状の配列は,北海道の南西沖約200kmにある千島海溝に対して,太平洋プレートがまっすぐではなく西側に約30度斜めに沈み込んでいることが原因になっています.斜め沈み込みによって,沈み込まれた側のプレートの前面の領域(根釧原野や十勝平野のある地域=千島前弧)は今でも西南西方向に引きずられています.その引きずりの影響で雁行状に割れ目ができ,そこに火山ができたと考えられています.

太平洋プレートの斜め沈み込みによる千島前弧の西進と火山列(Watanabe, 1990)
太平洋プレートの斜め沈み込みによる
千島前弧の西進と火山列(Watanabe, 1990)
阿寒カルデラ周辺の地質構造図(佐藤,1965)
阿寒カルデラ周辺の地質構造図(佐藤,1965)

噴火史その1

 約15万年~20万年前の激しい火山活動で3回の大規模火砕流が噴出し,阿寒カルデラが形成されました.3回の大規模火砕流は古いほうから,阿寒下部火砕流堆積物,阿寒溶結凝灰岩,阿寒上部火砕流堆積物と呼ばれています.その後,2万年前~5万年前頃に雌阿寒岳が噴火を開始しました.この頃には,東側にある南岳,中マチネシリ(マチネシリはアイヌ語で女山を意味します),1,042m峰,東岳の4つの山体が形成されました. これらのうち中マチネシリの山体が最も大きく,デイサイトや安山岩の溶岩ドームでできています.その後,1万2千年前には中マチネシリで激しい噴火が起こり,火砕流や降下軽石・スコリアなどが発生しています.この噴火で中マチネシリ山頂には長径1.1kmの火口が形成されました.9000年前にも中マチネシリから火砕流が発生し,西側の螺湾(らわん)川に流れ込んでいます.さらに6000年前にも中マチネシリからは比較的小規模な火砕流が発生しています.また,この頃雄阿寒岳が安山岩溶岩流を主体とする火山活動で形成されました.この火山活動によって,阿寒カルデラの中にできていた古阿寒湖は埋めて立てられ,現在のような阿寒湖,パンケトー,ペンケトーのような形になりました.

雌阿寒岳の地質図
雌阿寒岳の地質図

12000年前の中マチネシリ火砕流堆積物 〔宝田撮影)
12000年前の中マチネシリ火砕流堆積物
〔宝田撮影)

9000年前の中マチネシリ火砕流堆積物 (宝田撮影)
9000年前の中マチネシリ火砕流堆積物
(宝田撮影)

9000年前の中マチネシリ火砕流堆積物中に含まれていた縞状スコリアの巨礫 (宝田撮影)
9000年前の中マチネシリ火砕流堆積物中に
含まれていた縞状スコリアの巨礫 (宝田撮影)
フレベツ岳北にあるフレベツボッケ(泥火山)(宝田撮影)
フレベツ岳北にあるフレベツボッケ(泥火山)
(宝田撮影)

噴火史その2

 約3000年前~7000年前の火山活動では,ポンマチネシリ,西山,北山の3つの火山体が形成されました.ポンマチネシリ(アイヌ語で小さい女山を意味します)は,下部,中部,上部に分かれており,主に安山岩やデイサイトの溶岩,溶結火砕物でできています.西山は単成火山で玄武岩の溶岩・降下スコリア・溶結火砕岩でできています.北山は安山岩溶岩でできています.
 2500~1100年前には,ポンマチネシリの南側に阿寒富士が形成されました.阿寒富士は玄武岩溶岩流や降下火砕物でできた成層火山です.
 1100年~400年前には,水蒸気爆発や降下火砕物の活動によって,ポンマチネシリの山頂火口ができました.約700年前にはポンマチネシリ旧火口が形成され,400年前には赤沼火口ができました.最近数100年間では,小規模な水蒸気爆発が何度か発生しています.近年では,1955-56年,1989-90年,1996年11月21日,1998年11月9日に水蒸気爆発が発生しています.

ポンマチネシリの赤沼(北西の火口) 〔宝田撮影)
ポンマチネシリの赤沼(北西の火口)
〔宝田撮影)

ポンマチネシリの青沼(南西の火口)と阿寒富士 第4火口からの噴煙 (宝田撮影)
ポンマチネシリの青沼(南西の火口)と
阿寒富士第4火口からの噴煙(宝田撮影)

ポンマチネシリ上部の溶結火砕岩 (宝田撮影)
ポンマチネシリ上部の溶結火砕岩
(宝田撮影)
中マチネシリ火口(宝田撮影)
中マチネシリ火口 (宝田撮影)

深田久弥

 昭和34年(1959年)の夏に深田久弥氏が阿寒を訪ねたときには,ちょうど雌阿寒岳は登山禁止になっていました.そのため,雌阿寒岳に登る予定を変更して,雄阿寒岳に登っています.

文献とリンク

文献

    朝日新聞社 (2001) 週刊日本百名山 No.32 利尻岳・阿寒岳.朝日ビジュアルシリーズ.朝日新聞社.34p.
    勝井義雄・鮫島惇一郎・阿部永 (1996) 阿寒国立公園を歩く.コモンサイエンスインスティテュート.189p.
    小池省二 (1995) 北の火の山.朝日ソノラマ.271p.
    佐藤博之 (1965) 阿寒湖.5万分の1地質図幅説明書.地質調査所.81p.
    和田恵治(1998) 雌阿寒岳.フィールドガイド日本の火山3.北海道の火山.築地書館.20-41.
    和田恵治・稲葉千秋 (2001) 「雌阿寒岳」地質巡検案内書.2001年北海道火山勉強会.20p.
    Watanabe, Y. (1990) Pull-apart vein system of the Toyoha deposit, the most productive Ag-Pb-Zn vein-type deposit in Japan. Mining Geology, 40, 269-278.
    横山 泉・勝井義雄・江原幸雄・小出 潔 (1976) 雌阿寒岳.北海道防災会議.138p.

リンク

  • 和田恵治さん(北海道教育大旭川校)の雌阿寒岳のページ(リンク先ページ閉鎖)
  • 阿寒町役場観光課(リンク先ページ閉鎖)
  • 阿寒ネイチャーセンター


地質情報研究部門 宝田晋治 Webサイト(https://staff.aist.go.jp/s-takarada/akan/akan.html)で公開されている内容と同じものです。